耳鼻咽喉科における男女共同参画の取り組み
耳鼻咽喉科 医局長 江上直也 |
耳鼻咽喉科は外科系の中でも比較的女性に人気があり、多様な働き方ができる専門科です。
厚生労働省による統計では皮膚科や眼科において女性医師が占める割合が多い一方、勤務が不規則で体力を要する産婦人科や小児科を選択する女性医師も上位を占めています。このことは女性医師の専門選択理由には勤務時間の長短だけではなく、プライベートと仕事のよりよいバランスにあるようです。耳鼻咽喉科も脳神経外科や形成外科と合同で行う長時間に及ぶ頭頸部外科手術や急性疾患を多く扱う専門科である以上、当直業務が負担になることも少なくありません。しかしながら耳鼻咽喉科における女性医師割合は各科の中で第8位と比較的高く、当教室でも女性医師の割合は年々増加傾向にあり、全体の30%弱を占め、将来的なキャリア形成に重要な時期となる10年目以下の若手医師では40%強とさらに多くなっている傾向があります。
多くの女性医師にとって出産、育児は大変重要な時期であり、人生において子育てに母親として向きあえることはこの上ない喜びとなります。しかしながら、出産、育児を契機に医師としてのキャリアを継続することが困難になってしまうことも残念ながらあります。働き方は配偶者や双方の両親の協力、公的支援も含めた第三者のサポートをどのくらい受けることができるかによって個々に違いますし、それぞれのキャリアや子育てに対する価値観により選択されるべきものと思います。一方、医局運営の面から考えると人員不足という切実な問題となってしまいます。したがってそれぞれの立場に則した職場環境を整え、かつ医局としての力を維持するバランスが必要となってきます。当教室では例えば関連病院派遣中に育児休暇を本人の希望に応じて取れる体制作りや関連病院併設の保育園の利用など関連病院の協力を得ながら科の課題として取り組んでいます。また子育ての時期、特に共働きの医局員にとっては保育園へのお迎えなど時間的な制約も多く、今年度末から夕方のカンファレンス等の時間帯に配慮することで診療体制や教育体制など仕事の質を低下させることなく、業務の効率化と集中化で女性医師ばかりでなく、男性医師にとっても働きやすい体制を整え、仕事の質を高め、医局員の臨床・研究に対するモチベーションの高揚を模索している所です。
現在、産休・育休を経て子育てに奮闘されながら、病院診療医制度を利用し、臨床・研究の両面でご自身のキャリアを継続されている医局員の声を最後にご紹介します。
今後も「ワーク・ライフ・バランス」の実現を目指し、医師としてのキャリアの継続と家庭や子育てを両立しながら、それぞれの立場で勤務を続けられる魅力的な職場環境作りを目指して行きたいと思っております。
【一医局員の声】
わたしは平成22年度から導入された病院診療医の1期生にあたります。これまでの3年9ヵ月の間に第2子と第3子を産むことができ(第2子は早世しました)、育児休業もそれぞれ4ヵ月と1ヵ月強とることができました。育休を取ろうか迷っていた時、医局の方に「大丈夫ですよ。病院診療医は子育てをするための制度なんですから!」と励ましてもらったのを思い出します。しんどい時期もありましたので、正直なところこの病院診療医の制度がなければ医師としてのキャリアを切らさずに妊娠出産や子育てをするのは難しかっただろうと思います。
わたしが入局した頃は新しい男女雇用機会均等法が施行された頃でまだ旧姓での勤務や育児短縮勤務の制度がない頃でした。それを思うと「いちょう保育園」などが充実してきた今の状況には隔世の感があります。わたし自身、若い頃はお子さんの病気で早退されたり当直を回避される先生を疑問の目で見ていたこともありましたが、自分が制度を利用する側になって先輩方がどれほど苦労されてきたかがわかるようになり、女性医師のキャリアについての意識が変わってきました。
医局運営という立場からは、育児短縮勤務や育児休業を取得した医師を仕事面でどう評価するかというのも問題になってくるのではないかと思います。40代に入り同期の男性医師はみな責任ある地位に就いていて自分の能力のなさに愕然とすることも多いのですが、良い方に解釈すれば、自分はスタッフの先生にも若い先生にも教えを請いやすい、医局の風通しを良くする立場にいると言えるかもしれません。子どもがまだ小さく今年の病院診療医期限終了の後が心配ですが、「女性が勤務しやすい職場はすべての人が勤務しやすい環境だ」ということを肝に銘じ、今後皆様にご恩返しをしていけたらと思っております。
(2014年2月)