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女性医師として女性研究者として
 〜おそれず、あわてず、あなどらず〜

疾患生命工学センター 放射線分子医学部門 講師
細谷 紀子
 

 私は平成5年に本学を卒業後、内科に入局し、十余年にわたる血液疾患の臨床、研究、教育活動を経て、平成18年より疾患生命工学センターにおいてDNA損傷応答・修復によるゲノムの恒常性の維持機構ならびに疾患におけるゲノム不安定性の誘導機構の研究と教育を主軸とした活動をしています。細胞には、DNAが受けた傷を修復し、遺伝情報を正確に維持するシステムが備わっていますが、その破綻は、がんなどの疾患の原因となる上、DNAに二本鎖切断を作り出すことによってがん細胞を撲滅しようとする放射線治療や抗がん剤治療の原理にもつながります。がんの病態解明を目指してきた私にとって、未解決の問題が多く、染色体異常や個々のがんにおける治療反応性の違いが生じる本質に迫れるこの領域に取り組むことは、大きな魅力です。

 医学部卒業後の初めの数年間は、医師、研究者としてのプロフェッショナリズムを体得する上で極めて大切な時期だったと思います。この時期にはまだ子供はおらず、時間的制約のない状態で臨床と研究の基礎を学ぶことができました。このことは、結果的に、のちの仕事と育児の両立において非常に有利に働いたように感じています。平成12年に第一子を、平成14年に第二子を出産してからは、時間的制約のある中で、上司や同僚の先生方や家族の理解と励ましのもと、保育園、学校、学童保育、ベビーシッターなどの支援を受けながら仕事を続けてきました。大変な時期もありましたが、年月の流れと子供たちの成長に伴って余裕も生まれ、医学の仕事に邁進できる今があることに感謝しています。

 仕事においては、キャリアのステージに応じて様々な課題が生じます。また、人生においては、妊娠、出産、育児、介護、自身の健康問題など、様々なライフイベントが生じ得ます。ライフイベントを乗り越えながら仕事における自らの役割も果たすためには、ハード面、ソフト面の支援体制の充実だけでなく、本人の意識も大切です。以下、「おそれず、あわてず、あなどらず」というキーワードにあてはめてみます。

おそれず・・・・新しい道へ踏み出すことを恐れない。
   一度しかない人生ですから、自分の可能性に自分で制限を設けないで、思いっきりチャレンジしていきたいものです。自分の特性や強みと弱みを知り、医学の中で何を自分の根幹のテーマとしていくのかという問いに真剣に向き合う必要があります。研究、診療、教育に割くエフォートは人によって違いますが、大学で働く場合には、どの領域に所属していても、研究マインドをもってその領域の発展に寄与することが求められます。未知の生命現象を探求し、科学の奥深さに触れることは、研究だけでなく臨床や教育の世界も広げ、未来の医学につながっていきます。このようなことを実感できるのは、医学研究の醍醐味の一つだと思います。
   
あわてず・・・・周囲の状況に慌てない。焦らない。
   色々な事情により仕事に割ける時間が少なくなる時期においては、焦りが生じてしまいがちです。しかし、そのような時期こそ、中期的・長期的な目標を見失わないことが大切だと思います。その時々でやるべきことの優先順位を考えながら時間を大切に使って努力を積み重ね、将来への基盤を築いておけるかどうかで、数年後以降の展開が大きく変わってくると思います。
   
あなどらず・・・・仕事の厳しさ、責任の重さを侮らない。
   臨床の現場では、患者さんの命がかかっています。また、研究の現場では、常に成果が求められます。私は、研修医の時代から現在に至るまで、何人もの指導者の先生から「成果を論文として形にすること」の大切さを教わりました。生命科学・医学の研究では、発見したことを論文にまとめて投稿してから受理されるまでの道のりが長いことがしばしばあります。その領域のエキスパートであるreviewerに納得してもらえるようなデータを十分に示すことができるまで、地道に実験を繰り返さなければなりません。しかし、それを乗り越え、論文をbrush upして発表できた時の喜びは格別です。

 私は、男女共同参画委員会の発足当初から委員として活動させていただいています。これまで、歴代の委員の先生方や事務の方々との共同作業により、男女共同参画アンケートの実施、医学部女性休養室の開設と運営、本ホームページの開設と管理、医学系キャリア支援のための交流会の企画・運営などの事業に関わってきました。男女共同参画の活動においては、多様な構成員が働きやすい勤務環境を作っていくだけでなく、ライフワークとして医学の諸分野で高い志とモチベーションを持って活躍する人材を育てるという教育的な要素も不可欠であると思っています。今後も微力ながら医学系キャリア支援のために尽力するとともに、人生の途上にある自分自身も、心をこめて医学の道を歩み続けていきたいと思います。

(2014年2月)

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