海外キャリアを歩んできた経験から
マギル大学ヘルスセンター 教授
高野朋子
今年6月に東大で医学系キャリア支援のための交流会に演者としてお招きいただき、それをきっかけにさまざまな男女共同参画企画への取り組みを知ることができました。私自身は内科・腎臓内科研修と学位取得後にアメリカに留学し、以降21年間、腎臓内科医・研究者として北米に在住しています。最初に講演を依頼されたときには正直とまどいました。ポスドク時代から現在に至るまで、女性であることがキャリアの上で不利であると感じたことが一度もなかったからです。これは私に限ったことではなく、周囲の同僚や友人たちにもそのような不利を感じている女性は見受けられません。病院内、医学部内でも男女問わずリーダーシップを取っています。その後いろいろな方々とお話しする中、男女問わず北米の医師は労働環境に恵まれていることを理解し、感謝の念を新たにしました。
とはいえ、やはり家庭内での仕事は女性のほうが多く負担している場合が多く、さまざまなストレスがたまることはよくあります。そんな時に大変役立つのが、女性同士のランチ兼愚痴大会です。日本で言う女子会にあたるかと思いますが、かしこまったものではなく大抵2-3人で、オフィスでお弁当を食べたり、病院内のカフェテリアや近くのレストランなどその時々の都合に合わせてお昼を一緒に食べます。言いだしっぺは大抵ストレスレベルがMaxになった人で、目的はVenting(ガス抜き)です。いかに旦那が当てにならないか、子供の勉強・習い事や友人関係の話、職場での理不尽なこと、人間関係、話題は何でもあり。時には仕事の話が混ざることもあります。特に相談をしたり、解決策を探したりということではなく、自分のストレスを思いっきり人に話してすっきりして仕事に戻ります。しいて言えば、ストレスで硬直していた思考能力を回復し、自分で解決していける精神状態を取り戻すというところでしょうか。大抵一時間にも満たない時間ですが、とても精神衛生に良いです。お互いに多忙なので都合が悪ければ無理と言え、お互いに負担をかけることがなく、また口外してほしくないことは絶対に口外しないという信頼関係がこのような関係を長続きさせる必須条件かと思います。私もこのような話ができる友人はそう多くはないですが、楽しくキャリアと家庭を両立させていく上で貴重な存在だとありがたく思っています。職場内だけではなく、共同研究を通じて親しくなった友人たちとは電話で同じようなことをすることもあります。回りを見ていても男性はみなエゴが強く、このような愚痴大会をしている気配はあまりありません。キャリアを積んでいく女性たちの自衛手段なのかもしれないと思います。日本でも大きな枠組みを変えていくのは時間がかかると思いますが、長期間にわたって良い精神状態で仕事を続けるにはこのような日常の工夫も役に立つのではないかと思います。
(2015年11月)