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元医学系研究科長のメッセージ
医学系研究科での男女共同参画推進にあたり
東京大学大学院医学系研究科長・医学部長
清水孝雄
男女共同参画社会基本法が制定されたのが平成11年(1999年)のことである。もとより、法の下の平等の考え方により、男女の個人としての人権が保障され、性的差別を受けないことが日本国憲法の精神から重要であることは言うまでもない。医学系研究科において、学生、教職員の全ての人々にとってこの精神は尊重されねばならず、また、医学部附属病院では女性医師の働きやすい環境を作ることは、医師不足解消の一つの重要な方策としても、社会的に責任のあるところである。
特別な差別意識を持つ人々は研究や臨床の場で昔に比べて減っているにも関わらず、医学系教員や医師の中に女性の占める割合が、自然の男女比と比べて遙かに低いのは何故なのか。他方、看護師など医療系職では男性に比べて10倍以上の女性がいるのはどうしてなのか。歴史、制度、教育、風習など様々な要素が絡んでおり、その原因を同定することはたやすい事ではない。
医学系研究科の講師以上の総数は265名(平成21年12月現在)。女性教授は3名、准教授、講師は18名で、約7%。この割合は東大全学とほぼ同じであるが、欧米と比べて極端に少ないことは言うまでもない。教員選考において、医学系は男女の差別なく、最も業績が高く、熱意に溢れた優れた人材を採用することを大原則としている。率を上げるため、あるいは数字を上げるための無理なポスト作りなどの逆差別となる様な方策は、単なる対症療法であるだけでなく、大学の持つ上記の原則に副作用をもたらす危険性もあると考えている。むしろ、セックスとジェンダーの持つ生理的なハンディや、社会的困難を軽減する、初期の段階でのアクションをとるべきだと考えている。
第一歩として、本学の男女共同参画室の要望に応え、平成22年度より学部長裁量経費を用いた、「若手研究スタート・リスタート支援プログラム」を開設した。もちろん、産休、育休後の研究者を支援する措置でもある。さらに、医学系の各建物に「女性休養室」を設置した。乳幼児を持つ女性研究者や医師の休息などを目的としたものであり、簡易ベッドやソファー、冷蔵庫を備えている。さらに、病院では医療従事者のための「いちょう保育園」を作り、また、医師の多様な勤務形態を可能とし、ワークライフバランスを考慮した仕組みを作った。
先に述べたように、男女共同参画への道はたやすいものではないし、即効性のある施策はない。また、変わらなくてはならない意識は男性だけでなく、女性にも存在するはずである。しかし、女性を大切に出来ない社会は、そこに暮らす男性もまた大切にされていない社会であるとの認識を共有したいと思う。より働きやすい環境作りを目指すことにより、研究や診療、教育能力等の自然な競争の中で、優れた女性教職員と女医が増えることを切望している。
(平成22年4月)
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